28 June 2010

《天鼓》@矢来能楽堂

Tenko2010年6月26日(土)
矢来能楽堂

先日、随分と久しぶりに能を観て来ました。
外は時折パラパラと雨粒の落ちる梅雨空だというのに神楽坂の町は地図を片手に散策する人やお買い物の人々でかなりの賑わいでしたが、能楽堂の門をくぐれば、そこはいつもながらのシットリと落ち着いた空間。
紫陽花や都忘れの花が清清しく出迎えてくれました。

今回の「のうのう能PLUS」の演目は、中国物の《邯鄲》と《天鼓》。
前半に法政大学教授で法政大学能楽研究所所長も務められた表章氏から《天鼓》の上演史の解説があり、能も時代の要請にあわせて様々に形を変化させながら現在まで伝えられて来たことを知りました。

解説の後に、中国物の《天鼓》にちなみ、栄枯盛衰とは極めて儚いことであると例えた中国故事をもとにした仕舞《邯鄲》が舞われ、私も瞬く間に幽玄の世界に引き込まれてゆきました。
この演目は豪華な装束も面も付けない上演ですが、その舞は片時も目が離せないくらいステキでした♪

   ◇  ◇  ◇

さて、《天鼓》は、中国・後漢時代のお話。
王伯、王母という夫婦がおり、ある日、妻の王母は、天から鼓が降って胎内に宿るという夢を見ました。そうして授かった子に天鼓と名づけると、その後、本当に天から鼓が落ちて来たのでした。
そして、鼓と共に成長した天鼓が、その鼓を叩くと、何とも妙な音がして、聴く者を感動させ喜びの声を上げさせるようになりました。

そんな話を耳にした帝は、鼓を召し出すようにと勅令をくだしますが、天鼓は嫌がり鼓を持って隠れてしまいます。
しかし、あえなく捕らえられて鼓を取り上げられ呂水に沈められてしまったのでした。
ところが、主を失った鼓は、誰が叩いても全く鳴りません。
そこで帝は勅使を送って天鼓の父王伯を呼びだします。
鼓が鳴らなければ自分も殺されるのを覚悟で、天鼓への思いを胸に鼓を打つと、この世のものとは思えない音が鳴り響いたのでした。

感動した帝は、天鼓の冥福を祈るため呂水のほとりで管弦講を行いました。すると天鼓の霊が現れ、懐かしい鼓を打ち、管弦に合わせて、ひとしきり喜びの舞を舞ったのでした。

   ◇  ◇  ◇

能の前半は、年老いた父王伯を演じたシテが、後半では一転して、天鼓の霊となって若く初々しい舞を披露。
その演じ分けの上手さには驚きました。
そして、それぞれの装束の素晴らしいこと。特に天鼓の霊で使われた面の美しさには強く魅せられました。

それにしても、この世のものとは思えない鼓の音って、どんな風に表現するのだろう?
小鼓が受け持つのかな?
それとも大鼓かな?
と興味津々その場面を待ち構えていたら、な、なんと!
そうなんです。
鼓を打つ所作をするだけで、実際に音はしないのです。
いいえ、観ている人それぞれの中で鼓は鳴っているのですよね。

ううううむ、これぞ能の醍醐味か?!
またも、やられちゃいました。

   ◇  ◇  ◇

仕舞《邯鄲》
観世喜正

能《天鼓 弄鼓之舞》

前シテ(王伯)後シテ(天鼓の霊):観世喜之
ワキ(勅使):宝生欣哉
間狂言(家来):山本泰太郎

笛:一噌庸二
小鼓:観世新九郎
大鼓:柿原弘和
太鼓:小寺真佐人

後見:観世喜正 桑田貴志
地謡:遠藤喜久 鈴木啓吾 佐久間二郎 中森健之介

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25 November 2008

《紅葉狩》@矢来能楽堂

Momijigari2008年11月21日(金)
矢来能楽堂

先週末、神楽坂の矢来能楽堂で《紅葉狩》を観ました。
お能って、静かで、ゆっくりしていて、日本語わからないし、途中で眠くなっちゃいそ〜というイメージが未だあったのだけど、この《紅葉狩》は、戸隠山の鬼が平維茂(たいらのこれもち)を倒そうと美女に化けて近づき最後は本性を現して戦うというスペクタクルな演目で、眠気も吹き飛ぶ面白さでした♪

戦いの場面では、激しいお囃子と謡が続き「喉、大丈夫かしら?」と、こちらが心配になるほど。
ぴょんぴょんと舞台上を飛び跳ねる舞いは抑えられた躍動感とでも言ったらいいのかな?様式化された無駄のない所作にはうっとりするほどの美しさがあって、一瞬たりとも目が離せず舞台に引き込まれていきました。

それにしても、能装束って本当にステキ♪
今回も本来なら見ることの出来ない装束の着付けの様子を拝見させていただき、ごくごく平凡な顔立ちの能楽師さんが面(おもて)をつけた途端、悠久の時を越えた物語の登場人物、しかも美女!に変身してしまったのには何だか神秘的なものすら感じました。

それから、能の公演って、オペラと違ってサッと始まりパッと終わるところも何だか潔くてイイな♪

   ◇  ◇  ◇

能《紅葉狩》

シテ(美女・戸隠山の鬼):桑田貴志
ツレ(侍女):佐久間二郎
ツレ(侍女):坂真太郎
ワキ(平維茂):則久英志
間(侍女):山本則孝
間(男山八幡末社の神):山本泰太郎

笛 :八反田智子
小鼓:田邊恭資
大鼓:亀井広忠
太鼓:小寺真佐人

後見:観世喜正 奥川恒治
地謡:古川充 鈴木啓吾 小島英明 中森健之介

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28 April 2008

《隅田川》@矢来能楽堂

Sumidagawa2008年4月25日(金)
矢来能楽堂

先日、神楽坂にある矢来能楽堂で能《隅田川》を観てきました。

《隅田川》は世阿弥の長男 観世十郎元雅(1394?~1432)の作品で、ベンジャミン・ブリテンが1956年に来日した時に鑑賞し、とても強く感動して、後にオペラ《カーリュー・リヴァー》(1964年)を創ったことでも良く知られている能です。

数年前、その《カーリュー・リヴァー》の公演を観る機会があり、元となった能《隅田川》も、是非、観てみたいなと思っていたので、今回やっと、その願いが叶いました。

Yaraigate《隅田川》の物語は、人買いにさらわれた幼き我が子(梅若丸)を探しに京から旅をしてきた母親が、隅田川を渡る舟の上で耳にした話から既に梅若丸は死んで隅田川のほとりの塚に葬られていることを知り、その塚を掘り起こそうとする母の前に梅若丸の霊が現れるという、とてもとても悲しいものです。
その筋書きばかりでなく、母親の狂わんばかりの悲しみが舞いと最小限の所作で表現される能の美しさに、私も深く感動しました。

Yaraientranceところで私、お能は10年くらい前に千駄ヶ谷の国立能楽堂(とても立派)に通って何度か観ているのですが、ちょっと、いえ、かなり敷居が高くて、すっかり足が遠のいていたのでした。(^^;
しかし、今回、縁あって出かけた矢来能楽堂の「のうのう能」は、上演前に物語や見所の解説をしてくださり、お客さんも一緒に謡の一節を歌ったり、普段はみられない能装束の着付けまで舞台上で見せてくれたりと、とても解りやすく興味深い趣向が凝らされていました。

Yaraistageそして、矢来能楽堂は観世喜之さんが所有されている昭和27年に再建された木造の建物で(敷地内に観世喜之さんのお宅もありました。)、普段は閉ざされている門が公演のある日には開かれ、しばらく続く小道の先の灯りのともった能楽堂の入り口で舞台関係者が丁寧に温かく迎え入れてくれる雰囲気が、これまた素晴らしく、舞台が始まる前から気分が高揚しました。
客席が300席と小ぢんまりとしているところも良かったです。

これをきっかけに、ぜひまた気軽に、お能にも足を運んでみたいと思いました。

  ◇  ◇  ◇

観世十郎元雅:能《隅田川》

シテ(梅若丸の母):観世貴正
子方(梅若丸の霊):遠藤瑤実
ワキ(隅田川の渡し守):館田善博
ワキツレ(旅の者):森常太郎

笛:小野寺竜一
小鼓:後藤嘉津幸  
大鼓: 安福光雄

後見:長沼範夫、遠藤和久
地謡:味方玄、古川充、佐久間二郎、坂真太郎

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