蝋燭の灯りによる《熊坂》@国立能楽堂
先週、蝋燭能を観てきました。
見所(けんしょ=能では観客席を見所というのだそう。この日、場内アナウンスで知りました)に入ると、舞台の周りの白洲に、白い紙が漏斗状に巻かれた燭台が、五本一組にして並べられていました。
その、いつもとは違う雰囲気に、早くもワクワク♪
そして、開演の少し前になると、蝋燭一本一本に火が灯されてゆきました。
勿論それらは和蝋燭。どう見たってキャンドルではないことに軽い感動を覚えたのでした。
一枚の紙を透した蝋燭の炎は柔らかで、紙に遮られ周囲の空気の動きに影響されないためか、光はゆらゆら揺れることもなく静かに広がり、能舞台の静かで落ち着いた雰囲気を、なお一層高めているようでした。
さて、まず最初の狂言は、夜の瓜畑に入り込み瓜を盗む男と、瓜畑の持ち主との騒動を描いた《瓜盗人》。
ほんのりと蝋燭に照らされた舞台は、夜の畑という舞台設定にぴったりで演出効果は抜群でした。
盗人が案山子に化けた畑主を相手に、あれやこれやとやらかす姿は滑稽で笑いを誘いますが、そこには先入観にとらわれ現実を見ることのできない人間の比喩が隠されているのだとか。
ふうん、なるほど~ 狂言も奥が深いな~
それから、狂言にも囃子方の入るものもあるのですね。珍しい舞台を拝見することができました。
次に上演された能は、牛若丸に討たれた大盗賊熊坂長範の幽霊が登場する夢幻能《熊坂》。
前半は、旅僧も長範の霊が姿をかえた僧も直面(ひためん)のせいもあってか、かなり渋い感じで進んでゆくのですが、後半では一転、長範の霊が、さすが大泥棒!着ているものも違うな~と思わずにはいられない豪華な錦糸で織られた装束をまとって現われました。
そして、長霊癋見(ちょうれいべしみ)という、この曲でしか使われない不気味な表情の面と、長範頭巾という独特な頭巾も見ることができました。
牛若丸と激しく戦う長範は、蝋燭の炎に照らされて浮かんでは消え、消えては現れます。
その有様は、まさに幻の世界を見るようでした。
明るい人工照明に慣れた現代人の私の目には、もっと細かいところまで見たいのに見えないという若干のジレンマはありましたが、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を思い出しながら、蝋燭能の醍醐味を堪能させていただきました。
◇ ◇ ◇
狂言《瓜盗人》(大蔵流)
シテ(男):茂山千三郎
アド(畑主):茂山正邦
笛:一噌幸弘
小鼓:鵜澤洋太郎
大鼓:柿原弘和
太鼓:金春國和
能《熊坂》(宝生流)
前シテ(僧)後シテ(熊坂長範):朝倉俊樹
ワキ(旅僧):宝生欣哉
アイ(所の者):茂山逸平
笛:一噌幸弘
小鼓:鵜澤洋太郎
大鼓:柿原弘和
太鼓:金春國和
後見:宝生和英、渡邊茂人
地謡:金井賢郎、小倉健太郎、當山淳司、金井雄資、東川尚史、高橋亘、澤田宏司、小倉伸二郎