考える人2009年冬号「特集 書かれなかった須賀敦子の本」
昨年の秋に刊行された『芸術新潮10月号』に「特集 没後10年 須賀敦子が愛したもの」が組まれたのは、まだ記憶に新しいところなのだけど、現在、本屋さんの店頭に並んでいる季刊誌『考える人2009年冬号』も、なんとなんと、須賀さんの特集「書かれなかった須賀敦子の本」なのです♪
須賀さん自身が紡ぎ出す美しい文章が新たに生まれてくることは、もう、決して無いのよねと、同じ本を何度も繰り返しめくっている私は、須賀さんに関する新しい読み物が出たと知れば、たとえそれが須賀さん本人の文章でなかろうと、たとえ「むむ?これって出版社の思う壷よね!」と解っていようとも、とにかく読みたくて居ても立ってもいられなくなってしまうのです。
という訳で、もちろん今回もシッカリ入手しました♪
「書かれなかった須賀敦子の本」と来れば、それが、テオ・アンゲロプロス監督の映画《ユリシーズの瞳》に触発された晩年の須賀さんが、アルザスまで取材に出かけ構想を練っていたものの、病気のために創作ノートと草稿を残すのみで完成させられなかった長篇の物語『アルザスの曲がりくねった道』を指していることは、全集を読んでいる人なら、すぐ解ることなのだけど、おっちょこちょいで慌て者の私ときたら、その全集に収録されている未定稿とは別のものが近ごろ新発見でもされ、今回、発表されるのかも!?なあんて勝手に思い込んでいたのでした。
結局、雑誌に掲載されたのは既に全集に収録されている序章(未定稿)と創作ノートでした。
須賀さんのアルザス取材旅行に同行した新潮社の編集者 鈴木力さんの談話からは、三人称で書くか一人称で書くか?長篇ではなく短篇連作で書こうか?など色々と悩んでいた頃に書いた複数の草稿が存在していたことが伺え、そのうちの幾つかでも目にすることが出来たら嬉しかったなぁと、ちょっぴり残念でした。
でも、その鈴木力さんに宛てた手紙の写真から須賀さんの直筆文字を見る機会が得られ(芸術新潮に掲載されていたイタリア語の絵本にふられた日本語訳も丁寧で美しい筆跡でしたが、手紙の文字も親しみの持てる筆致でした。)、「エマウスの家」での須賀さんの活動や信仰のことについて書かれた湯川豊さんの記事や、須賀さんやご両親の素顔を語った妹・北村良子さんのロング・インタビューなど読み応えタップリの内容には大満足です。
また、巻末にはペッピーノの書いた"Atsuko"で始まる小さな詩が紹介されていて、須賀さんの眼差し、そして、それを見つめるペッピーノの眼差し、どちらも何てステキなんだろうって思いました♪