カラヴァッジョ《洗礼者聖ヨハネの斬首》聖ヨハネ大聖堂(ヴァレッタ)
あら! レ・パラダン、のだめ、須賀さん全集、モランディなどなど、次から次へ私の好奇心を刺激するものが現れるものだから、すっかり脱線してしまったけれど、そろそろマルタ旅行記に戻らなくちゃ。
このペースでは完全に年が明けてしまいそう・・・(^^;
せめて、マルタの至宝カラヴァッジョの《洗礼者聖ヨハネの斬首》だけでも片付けちゃおっと。
実は私、1996年夏、たまたま訪れたフィレンツェのヴェッキオ宮殿で門外不出のはずのこの作品を一度観ています。
本来あるはずのない場所での思いがけないカラヴァッジョの最高傑作との出会いに、すご〜く興奮したこともハッキリ覚えています。
今回のマルタ旅行の目的の一つは、10年ぶりに、この作品に今度は私から会いに行くことでした。
それでは、まいりま~す。
◇ ◇ ◇
しばらく豪華絢爛な本堂や礼拝堂で上を見たり下を見たりと忙しくしていた為かクラクラと軽い眩暈のような感覚を抱いたまま次の間へ進むと、そこが聖ヨハネの祈祷室 The oratory of St.Johnでした。
奥に細長く伸びた堂内には、いかにも特別な空間といった厳かな雰囲気が漂っており、入室者の殆どが他のものには目もくれず、一番奥の主祭壇で圧倒的な存在感を放っている巨大な祭壇画カラヴァッジョ《洗礼者聖ヨハネの斬首》の前に吸い寄せられてゆくのでした。かく言う私も同じでした。(^^;
《洗礼者聖ヨハネの斬首》(1608年、油彩・カンヴァス 361×520cm)は一段高くなった主祭壇の奥に架けられているため美術館で絵画を鑑賞するように接近することは出来ませんが、画面全体に散りばめられたハイライトが薄暗い室内に浮かび上がり、こちらに迫ってくるようです。
また、死刑執行人の背中、洗礼者聖ヨハネを押さえつける真っ直ぐに伸びた腕、洗礼者聖ヨハネの顔、銀の皿、サロメ、召使いの老女、看守、牢の格子窓から覗き見する2人の囚人へと、見るものの視線を順に導いてゆく画面構成の何と巧みなこと。
そして、恐ろしい死の場面が描かれているにも関わらず、その抑制された画面が静謐さをも感じさせるのです。
とても不思議な感覚です。
「うううむ、さすがカラヴァッジョ! 上手いなぁ!」と、シンと静まった部屋の中で、私は危うく声をあげてしまいそうになったのでした。
今さら言うまでもないことですが、洗礼者聖ヨハネは聖ヨハネ騎士団の守護聖人です。
もしかして、カラヴァッジョの描いた洗礼者は、騎士団そのものを象徴しているのではないでしょうか。
イスラム軍との激しい戦いを強いられ死を常に覚悟していた騎士達は、洗礼者聖ヨハネに自らの姿を重ね見たのかもしれません。
洗礼者聖ヨハネの首から流れる血は、二度目の洗礼と言われている「血の洗礼」を意味し、更に騎士達の「殉教」を現していたのかも?
蛇足ですが、主祭壇の前面についていた金色のレリーフも気になったので良く見てみると、こちらは洗礼者聖ヨハネの生首をサロメの持つ銀の皿に死刑執行人がのせている場面でした。う〜む、斬首づくし。(^^;
さて、この絵の作者ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ Michelangelo Merisi Caravaggio (1573-1610)は、聖ヨハネ騎士団長アロフ・ドゥ・ヴィニャクールの計らいで、1608年7月14日に「従順の騎士 Cavalieri di obbedienza」のうちの「恩寵の騎士 Cavaliere di grazia」の称号と、ご褒美に金鎖と二人の奴隷を与えられました。
ところが、またやっちゃったんです、血の気の多いミケくん・・・(^^;
僅か1ヶ月後の1608年8月18日、高位の騎士ベッツァ伯ロドモンテ・ロエロを襲撃し、8月27日には囚われの身となってしまったのです。
しかし、騎士の称号を得たことに大変な名誉を感じていたカラヴァッジョは、恐らく高い使命感や誇りを持って、この作品を描きつづけたのでしょう。
f.miche.Ang..lo(フラ・ミケランジェロ)すなわち「ミケランジェロ、ここ(ヨハネ騎士団)に属す」とサインした唯一の作品であることからも、それをうかがい知ることができます。
しかも、そのサイン、洗礼者聖ヨハネの首から流れ出した血だよん・・・ お〜っ
さぁ、捕らえられたカラヴァッジョ、この後の運命はいかに!
つづく〜(^^;
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Comments
こだまさん、こんにちは。
それなら、きっと、宮下先生が書かれた小学館の西洋絵画の巨匠シリーズの『カラヴァッジョ』だと思います。
Posted by: snow_drop | 18 December 2006 at 12:54
ん~、本の著者名までは覚えてません・・・なにしろ図書館で斜め読みしただけなので。(-_-;)
カラヴァッジョ関連の本は何冊か読んだんですが、芳翠について書いてあったのは写真がたくさん載っていて大きなサイズのものでしたよ。
Posted by: こだま | 18 December 2006 at 06:59
こだまさん、こんばんは。
わぁ、こだまさん勉強家だなぁ。(^^)
もしかして読んだのって、→の「Books」にある宮下規久朗先生の著書かな?
私も読んでいて、日本のカラヴァッジェスキとして山本芳翠が筆頭にあげられていたのに感心していました。
芳翠さんを祖先に持つこだまさんにもお知らせしなくちゃと思っていたところでした。(^^;
それから、後ろ手にされた洗礼者聖ヨハネの右手に、ちゃんと意味があったのですよね。
う〜ん、見れば見るほど、知れば知るほど深い意味をもつ作品なんですね〜
だから、こうして、はまっちゃうのかなぁ。(^^)
Posted by: snow_drop | 17 December 2006 at 21:25
最近snow_dropさんの影響でカラヴァッジョについて調べたりしてたんです。 その本によると、カラヴァッジョの絵画中のヨハネの右手の描写がマルタ騎士団の聖遺物「聖ヨハネの右手」にそっくりなんだとか。 聖遺物自体は今は失われてしまったみたいなんですが、どんなものだったか記録に残ってるんですって。 よく見ると絵に描かれている手も小指がないでしょ。
あ、それからね、芳翠もオランダのカラヴァジェスキたちを通じて間接的に影響を受けているみたいですよ。 『勾当内侍月詠図』などの陰影の表現など。(と本に書いてありました。)
東京行った時、泉岳寺に墓参りするの忘れちゃった! 目黒や品川のあたりには行ったのになぁ。(^^;
Posted by: こだま | 16 December 2006 at 22:31
ちまさん、こんばんは。
うんうん、そうなの、暗い画面に「赤」を効かせるやり方は、カラヴァッジョが、他でも良く使ってる手法だけど、何やら、この絵には「赤いマント」に、さらなる意味があるらしいんですよ〜
それから、視線を手前からグルンと奥へ持って行く構成は、極めてバロック的なんだけど、この絵の凄いところは、そこに古典的(ルネサンス的)ともいえる静かな雰囲気も併せ持ってることだと思うんだ。
あと、本人そっくりっていうのは、絶筆と言われてる《ゴリアテの首を持つダヴィデ》のゴリアテでしょ。(^^)
そうだね、マルタを逃亡してから、他に《サロメ》も2枚描いてるし、《洗礼者聖ヨハネ》も描いているし・・・
自らをゴリアテに準えたりと、彼も反省してたみたいだよね。
話は変わって、ディドロ『絵画論』。
読む意欲を無くさせてしまったみたいで、ごめんなさ〜い。
私も、もう一度、挑戦してみようかな。あは(^^;
Posted by: snow_drop | 26 November 2006 at 23:24
マルタでは一番有名な絵ですよね(多分)。すごいドラマ感ですねー。ヨハネの赤い布と血が眼にとまり、斬首者の伸びた腕から、ヨハネを取り巻く周囲、そして囚人と、ぐり~ん、とシメの字に視線が動いちゃいます。
同じ頃描かれた絵もみんな、鬼気迫るものがありますよね。キューピッドが眠っている絵は、実際の子供の死体をモデルにしたらしいし。生々しさにもいちいち理由があるから余計に怖い。同じような斬首テーマの絵で(ダビデだったかな?)、首斬られた男の顔が、本人そっくりに描かれるのもあるし。身から出たサビとはいえ、ちょっと可哀想。
そう言えば、ディドロの「絵画論」、家にありました。読んでないけど。スノーさんがああ言ったから、ますます読む気なくなったりして…。
Posted by: ちまる | 26 November 2006 at 18:00