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05 January 2006

ザルツブルク音楽祭2005 ヴェルディ《椿姫》

netrebko先日、2005年ザツルブルク音楽祭で上演されたヴェルディ《椿姫》を、NHKのBS-hiで観ました。

とにかく、すごくよかった~
とてもシンプルだけど美しい舞台に、もう釘付け!
それはきっと、歌手もオケも演出も、全て完璧と言って良いくらい高いレヴェルのプロダクションだったからなのでしょう。

大きな弧を描いた舞台は、無駄なものを一切省いた何もない空間。その壁に、ただ一つ立てかけられた巨大な丸い文字盤の時計に、否が応でも目がいきます。
そして、その時計の前には老人が一人座っていました。

私は、この老人は、若さと美しさを奪い、最後には死へと導く「時の翁」(Father Time,時の擬人化)なのではないか?
そして、ことあるごとにヴィオレッタの傍にいる彼は、もしかして、この舞台を支配するキーパーソンなのではないか?
と、舞台の進行と共に、とても気になる存在になっていました。

指揮者がオケ・ピットに入り前奏曲が始まると、真っ赤なミニドレスに身を包んだヴィオレッタが大きな扉をこじ開け老人の座る部屋に入ってきます。
そして、この老人から、一夜で色褪せてしまうという白い椿の花を一輪手渡されオペラは幕を開けるのです。

実は、このオペラ、始まるやいなや合唱が「招待の時刻は、もう過ぎてしまった・・・」と歌い、それに対してヴィオレッタが「残った夜の時間を、楽しみに費やしましょう。」と歌ったり、第2幕で、パパ・ジェルモンがヴィオレッタに向かって「男は移り気だから、時があなたの魅力を失わせ、すぐに飽きが来たら・・・」と歌ったりと、気をつけて聞いていると、幾つも時間に関する台詞が出てくるのです。

ぐるぐるとスピードを上げて回る時計の針を止めようとするヴィオレッタの姿もありました。
遠くから見つめる老人に向かって、シャンパンのグラスを投げつけるヴィオレッタもいました。

そして物語はすすみ、第3幕、ヴィオレッタの病室に、またあの老人が現れます。(というより、2幕の終わりからずっと居たのです。コワイ!)
そうなんです! ヴィオレッタの影にいつも寄り添っていた時の翁は、グランヴィル医師だったのです。
そして極めつけがグランヴィルがアンニーナに小声で「時間の問題です。」と、ヴィオレッタの病状を伝える言葉です。

私も、今まで数多くの椿姫を見てきたけれど、今回ほどメメント・モリを強く感じずにはいられない演出は、ありませんでした。

賛否両論あるでしょうが、私はこういう演出が好きです!

歌手で特筆すべきは、やっぱりヴィオレッタを歌ったアンナ・ネトレプコの活躍。
彼女なくして、この舞台の成功はなかっただろうし、彼女のために作られたプロダクションと言っても過言ではないと思いました。
特に、天真爛漫な彼女の素のキャラクターをそのまま活かしたような第2幕第1場の演出は「ちょっと元気よすぎやしない?」と思わなくもなかったけれど、これまでの高級娼婦ヴィオレッタのイメージをガラリと変えることができたのも、ネトレプコだったからこそでしょう。
美貌、声、歌唱力、演技力と、恐ろしいほど沢山の才能を持ち合わせた、とにかく凄いソプラノです。

それから、トマス・ハンプソンも、今まで見たことのないパパ・ジェルモンを熱演してました。
本気で息子と殴りあいしちゃいそうな若いパパって感じが新鮮で面白かったです。

そして、大抵、期待していて裏切られるのがアルフレード役なのですが、今回の ロランド・ビリャソンは違いました。
歌も声も安定しているのに、とても若々しく、久しぶりに良いアルフレードに出会えたなぁと嬉しくなりました。

何はともあれ、素晴らしい《椿姫》でした。
一度でも真剣に恋をしたことのある女性なら、涙なしには見られない舞台だと思います。

   ◇  ◇  ◇

2005年8月7日 ザルツブルク祝祭大劇場
ヴェルディ《椿姫》

指揮:カルロ・リッツィ
美術:ウォルフガング・グスマン
演出:ウィリー・デッカー
ヴィオレッタ:アンナ・ネトレプコ
アルフレード:ロランド・ビリャソン
ジョルジョ・ジェルモン:トマス・ハンプソン
グランヴィル医師:ルイージ・ローニ

合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

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Comments

aliceさん、はじめまして。
コメントをいただき、どうもありがとうございます。

「時の擬人化」は私の勝手な推測ですから、なんとも・・・(^^;
でも「時の翁」は死を暗示するものとして「死神」とは親戚関係ですよね。手にもつ大鎌や砂時計は両者に共通したアトリビュートですし。(^^)

aliceさんは美術にも、お詳しいのですね。
芸術作品の中の寓意や象徴を読み解くのは、なかなか楽しいですよね。
こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

Posted by: snow_drop | 07 January 2006 at 21:49

はじめまして、ブログサーフィンでこちらにたどり着きました。私の簡単な「椿姫」の感想とは天地ほどの違いの読み応えのあるもので感服いたしました。例の老人はおっしゃるとおり「時の擬人」
なのでしょうね。私は死神と書き込みしましたが・・・いまさら訂正もままならずで。(汗)ブロンズィーノの「愛の寓意」の老人、確かかたわらに砂時計が描かれていましたね。

偶然ですがブログの「気まま」という言葉に気が合いそう~と勝手に決めてしまいました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

Posted by: alice | 07 January 2006 at 18:49

dognorahさん、こんにちは。
この《椿姫》音声だけでも、とても素晴らしいですよね。(^^)
でもきっと、映像もご覧になると、また全然違った楽しみ方ができるのではないかと思います。
「メメント・モリ」とか「時の翁」とか、私が勝手に言ってるだけなので、演出家は何と言ってるかは、全く解りませ〜ん。(^^;

Posted by: snow_drop | 07 January 2006 at 08:45

力作ですね!どういう内容なのか隅々まで判った気になります。私は音声でしか聴いていないのですが、近々映像が期待できそうですのでとても楽しみです。それにしてもすごい演出だったのですね。なるほどメメント・モリですか。とても勉強になりました。

Posted by: dognorah | 07 January 2006 at 03:34

Orfeoさん、こんばんは。
ヴァーグナーのリングの記事、私もしっかり読ませていただいてますよ。(^^)
きのけんさんのコメントの虎の皮のパンツで笑ってみたり・・・(もっと真面目に読めって(^^;)

それにしたって、本当に、NHKには大感謝です!(^^)
Orfeoさんの《椿姫》の記事、楽しみに待ってます。
現代的な演出だったからなぁ〜 ドキドキ!

Posted by: snow_drop | 06 January 2006 at 22:41

こだまさん、こんばんは。
そうかぁ、病気だったから観られなかったのかぁ・・・
かわいそうにぃ(涙)
BS-2で再放送があるかもしれないので、その時は観られると良いですね。
デッカーの演出は、「よかった!」っていう人は少数みたいなんです。かなしぃ。
ネトレプコは、すごく「びじ〜ん」ですよ!(^^)

Posted by: snow_drop | 06 January 2006 at 22:32

romaniさん、こんばんは。
こちらこそ、TBとコメントを、どうもありがとうございます。

>とても素晴らしいブログですね。

いえいえ、とんでもない。あっちへフラフラこっちへフラフラ、まとまりのない「気ままな」ブログで、恥ずかしいです。(^^;

私の方こそ、romaniさんのブログに、またお邪魔させていただきたく思ってます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。

Posted by: snow_drop | 06 January 2006 at 22:18

ご〜けんさん、こんばんは。
コメントとTB、どうもありがとうございます。

>以前のヒヤシンスさんに戻りましたね。

え?そうですか? 調子に乗って書きすぎたかも。(^^;

>ところでルイージ・ローニと言う方、有名な歌手なのでしょうか。

私も、今回、初めて知りました。
本当にそうですね。堂々として、とても存在感がありましたね。

兎に角、この《椿姫》は永久保存版ですね。(^^)

Posted by: snow_drop | 06 January 2006 at 22:13

snow_dropさん、こんにちは。

毎年正月に『椿姫』を流すのは恒例ですが、今年はとびっきりのコンテンツを持ってきましたよねえ、NHK。とても楽しめました。
私も記事をアップしたいのですが、現在『指環』にどっぷりつかっていますので(笑)、その後に持ってきます。そしたらTBさせていただきますね。

Posted by: Orfeo | 06 January 2006 at 19:22

素晴しい舞台だったようですね。 文面から溢れんばかりの感動が伝わってくるようで、是非僕も観てみたくなりました。 実家にはBSデジタル入ってるので見たかったのですが、なにしろ正月は病にふせっておりましたので・・・。 椿姫は何度か観たことあるんですが、この舞台演出はなかなか面白そうですね。 アンナ・ネトレプコも聞いてみたいなぁ。

Posted by: こだま | 06 January 2006 at 15:35

snow dropさま
TBならびにコメントをいただきありがとうございました。
素敵な舞台でしたね。snow dropさまの記事を拝見して、また感動が甦ってきました。
またsnow dropさまのブログ拝見しましたが、とても素晴らしいブログですね。またおじゃまさせていただきます。
今後ともよろしくお願い致します。

Posted by: romani | 06 January 2006 at 07:26

snowさん、さすがです。読み応えがありました。以前のヒヤシンスさんに戻りましたね。素晴らしい記事でした。背景の描写のみならず、配役やスタッフへの思いやりも感じられ、私も大いに見習いたいと思います。ところでルイージ・ローニと言う方、有名な歌手なのでしょうか。実に存在感がありました。演出そのものとしては余計なものがあったかもしれませんが、ひとつの線が貫かれていれば、それはそれで納得が行くことを教えてくれたように思いました。kalosさん、dognoさんたちからもコメントほしいですね!!

Posted by: ご~けん | 05 January 2006 at 22:17

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