30 July 2013

蝋燭の灯りによる《熊坂》@国立能楽堂

Noh_jul2013年7月25日(木)
国立能楽堂

先週、蝋燭能を観てきました。
見所(けんしょ=能では観客席を見所というのだそう。この日、場内アナウンスで知りました)に入ると、舞台の周りの白洲に、白い紙が漏斗状に巻かれた燭台が、五本一組にして並べられていました。
その、いつもとは違う雰囲気に、早くもワクワク♪
そして、開演の少し前になると、蝋燭一本一本に火が灯されてゆきました。
勿論それらは和蝋燭。どう見たってキャンドルではないことに軽い感動を覚えたのでした。
一枚の紙を透した蝋燭の炎は柔らかで、紙に遮られ周囲の空気の動きに影響されないためか、光はゆらゆら揺れることもなく静かに広がり、能舞台の静かで落ち着いた雰囲気を、なお一層高めているようでした。

さて、まず最初の狂言は、夜の瓜畑に入り込み瓜を盗む男と、瓜畑の持ち主との騒動を描いた《瓜盗人》。
ほんのりと蝋燭に照らされた舞台は、夜の畑という舞台設定にぴったりで演出効果は抜群でした。
盗人が案山子に化けた畑主を相手に、あれやこれやとやらかす姿は滑稽で笑いを誘いますが、そこには先入観にとらわれ現実を見ることのできない人間の比喩が隠されているのだとか。
ふうん、なるほど~ 狂言も奥が深いな~
それから、狂言にも囃子方の入るものもあるのですね。珍しい舞台を拝見することができました。

次に上演された能は、牛若丸に討たれた大盗賊熊坂長範の幽霊が登場する夢幻能《熊坂》。
前半は、旅僧も長範の霊が姿をかえた僧も直面(ひためん)のせいもあってか、かなり渋い感じで進んでゆくのですが、後半では一転、長範の霊が、さすが大泥棒!着ているものも違うな~と思わずにはいられない豪華な錦糸で織られた装束をまとって現われました。
そして、長霊癋見(ちょうれいべしみ)という、この曲でしか使われない不気味な表情の面と、長範頭巾という独特な頭巾も見ることができました。
牛若丸と激しく戦う長範は、蝋燭の炎に照らされて浮かんでは消え、消えては現れます。
その有様は、まさに幻の世界を見るようでした。
明るい人工照明に慣れた現代人の私の目には、もっと細かいところまで見たいのに見えないという若干のジレンマはありましたが、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を思い出しながら、蝋燭能の醍醐味を堪能させていただきました。

   ◇  ◇  ◇

狂言《瓜盗人》(大蔵流)
シテ(男):茂山千三郎
アド(畑主):茂山正邦

笛:一噌幸弘
小鼓:鵜澤洋太郎
大鼓:柿原弘和
太鼓:金春國和

能《熊坂》(宝生流)
前シテ(僧)後シテ(熊坂長範):朝倉俊樹
ワキ(旅僧):宝生欣哉
アイ(所の者):茂山逸平

笛:一噌幸弘
小鼓:鵜澤洋太郎
大鼓:柿原弘和
太鼓:金春國和

後見:宝生和英、渡邊茂人
地謡:金井賢郎、小倉健太郎、當山淳司、金井雄資、東川尚史、高橋亘、澤田宏司、小倉伸二郎

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09 July 2013

大野和士&新日フィル@すみだトリフォニーホール

Nhp07062013年7月6日(土)
すみだトリフォニーホール

指揮:大野和士
新日本フィルハーモニー交響楽団

シャリーノ:夜の肖像
ツィンマーマン:ユビュ王の晩餐のための音楽
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(ノーヴァク版、1954)

   ◇  ◇  ◇

大野さんの演奏を聴くのは2011年1月の新国立劇場での《トリスタンとイゾルデ》以来なので2年半ぶり。そういえば、その直後に予定されていた東フィル100周年を記念する演奏会が、大野さんの頚椎の不調で指揮者交代になりガッカリしたのを思い出しました。
もうすっかり回復されたのかな?
今回、久しぶりに大野さんの紡ぎだす音楽を堪能することができ嬉しいかぎり♪

さて、マオカラーのスーツで登場した大野さん。一曲目はシャリーノの「夜の肖像」です。
現代音楽を得意とされている大野さんらしい選曲で、もちろん私は初めて聴きました。日本初演ですからね〜
とても難しそうな曲でしたが、精度の高い演奏で、聴いている私は楽しかったです。
シャリーノ、もっと聴きたくなりました。

つづいて二曲目はツィンマーマンの「ユビュ王の晩餐のための音楽」。切ったり貼ったり重ねたり、コラージュのような作品。聴き覚えのある曲が沢山でてきて、おもちゃ箱ならぬ整理のできてないCDラックをひっくり返しちゃったような曲でした。
とても面白かったです♪

休憩をはさんで後半はブルックナーの7番。
前半に演奏された二曲が、とても斬新だったものだから、もうお馴染みのブルックナーは、すっかり安心しきって聴いてしまい、スルスル~と心地よく身体の中に入ってきて、またスルスル~と抜けて行ってしまった感じでした。
でも、歌うところは歌い、押さえるべきところは押さえた模範的な演奏だったので、長大な曲でしたが上手くまとまっていたと感じました。

ところで、2015年から都響の音楽監督に就任されることになった大野さん、オペラや現代音楽も沢山演奏してくれることを期待してます♪

【関連エントリ】
ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》@新国立劇場(2011/01/11)
大野和士&リヨン@東京オペラシティ(2009/11/11)

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24 June 2013

ダニエル・ハーディング&新日フィル@すみだトリフォニーホール

Njp06222013年6月22日(土)
すみだトリフォニーホール

指揮:ダニエル・ハーディング
新日本フィルハーモニー交響楽団

マーラー:交響曲第6番イ短調《悲劇的》

   ◇  ◇  ◇

久しぶりのコンサートはマーラーの6番。
しかも指揮者はダニエル・ハーディング!
否が応でも期待は高まる~♪

思えば2008年2月にもハーディング&東フィルの組み合わせでマーラー6番を聴いているのだけれど、今回の演奏は、その時とは随分違ったものでした。

1楽章は奇を衒うようなところのない安定したテンポで進み、どこか都会的でシャキンと洗練された印象。オケはしっかりとハーディングの指揮についてゆき、ヒヤヒヤさせられる場面も、ほとんどありませんでした。

ところが、2、3楽章になると、アルプスの風景が目に浮かび、まるで夏の高原でまどろんでいるような、のどか~な雰囲気に。ゆったりとした気分で音楽に身を委ねてしまいました。

そして4楽章で、また一転。今度はググッと緊張感が高まりました。
さまざまなパーカッションが登場し、見応え聴きごたえたっぷり。注目のハンマー係の打楽器奏者さんはカウベルを鳴らしに舞台裏に引っ込んだり戻ってきたりと大忙しのご様子でした。

最後列のコントラバス奏者お二人は舞台からはみ出して袖のドアに身体が半分隠れてしまうほど大編成のオケは、もう迫力満点!
とっても楽しかった~♪

11月のマーラー7番も聴きたい!

【関連エントリ】
ダニエル・ハーディング&東フィル@サントリーホール(2008/02/21)

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16 June 2013

《天鼓》@国立能楽堂

Noh_jun2013年6月8日(土)
国立能楽堂

今月もまた能を観に行ってきました♪
ほんの数年前までは敷居が高くて近寄り難かったのに、変われば変わるものです。近頃は、あの能楽堂の空間に居心地のよさを感じています。

さて、狂言《昆布売》は、とっても面白かった♪
ただ可笑しいだけでなく、そこには武士と昆布売の立場が逆転するという、室町時代に広まった下克上の風潮が現されているのだとか。
昆布売に脅された武士が、謡節、浄瑠璃節、踊節など、いろいろな節まわしで売り声を真似する場面は、三味線の音を言葉に置き換えてみたり踊ってみたり。それぞれの雰囲気が良く出ていて、とても楽しめました。

ちなみに謡節は
「昆布召せ 昆布召せ お昆布召せ 若狭の小浜の召しの昆布 若狭の浦の召しの昆布♪」

それが浄瑠璃節になると
「つれてん つれてん てれてれてん♪ まづこれが三味線の心持ちじゃ 昆布召せ 昆布召せ お昆布召せ 若狭の小浜の召しの昆布 つれてん つれてん てれてれてん♪」

さらに踊節は
「昆布召せ 昆布召せ お昆布召せ 若狭の小浜の召しの昆布 召しの昆布 この しゃっきしゃ しゃっきしゃ しゃっきしゃっき しゃっきしゃ♪」

といった具合。
当時、世間で流行っていた節を取り入れているのだそうですが、今、聴いても楽しめてしまうところがすごい!

それから、武士のタツノオトシゴ模様の装束は可愛いし、昆布売の背中には二尾の大海老の模様が大胆にあしらわれていて、なかなか粋でした。

さて、休憩をはさんで後半は能《天鼓》。
この曲を見るのは二度目。今回も感動しました。
老いた父の王伯と若き天鼓の対比が見所のひとつだそうですが、その演じわけも素晴らしかったし、装束も見事だったし、面も美しくうっとり〜♪
登場人物は3人と少なく、シンプルな舞台なのに、こんなに魅せられてしまうとは!

ところで、天鼓が鼓を打つ場面では、お囃子の小鼓のタイミングと合う瞬間もあったり、鳴らなかったり。また、前回はお囃子に太鼓があったのに今回はなかったし、地謡は前回は4人だったのに今回は8人でした。
流派によって違うのかな?

   ◇  ◇  ◇

解説:村瀬和子

狂言《昆布売》(和泉流)
シテ(昆布売):高澤祐介
アド(何某):前田晃一

能《天鼓》(宝生流)
前シテ(王伯)後シテ(天鼓):武田孝史
ワキ(勅使):高井松男
アイ(勅使の使者):三宅右近

笛:一噌幸弘
小鼓:鵜澤洋太郎
大鼓:佃良勝

後見:高橋章、渡邊茂人
地謡:内藤飛能、朝倉俊樹、亀井雄二、三川淳雄、小倉伸二郎、亀井保雄、高橋亘、金森秀祥

【関連エントリ】《天鼓》@矢来能楽堂(2010/06/28)

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21 May 2013

東京国立近代美術館「フランシス・ベーコン展」

Baconここしばらく大きな展覧会に足を運んでいなかったので、久しぶりに竹橋の近代美術館に行って来ました。

フランシス・ベーコン(1909年~1992年)

かろうじて名前と代表作を図版で知っていた程度で、実物の作品を観るのは初めて。
先入観なしのまっさらな気持ちで展示室に足を踏み入れました。

100号を超える大きな作品がずらりと並んでいるけれど威圧感がないのは大きさの割にはサラッと描かれているからなのか? 程よい間隔をとって展示されていたからなのか?
制作過程では画家のなかで様々な試行錯誤があったに違いないけれど、出来上がった作品を観る限りでは「肩に力が入ってなくていいな~」という印象を持ちました。

絵を描くようになってから、私自身のなかで絵画鑑賞のスタンスが大きく変化し、特に近ごろは、絵画は視覚芸術なのだから、あれこれ言葉による説明はいらないと思うようになりました。
だから、作品につけられていたキャプションは読みませんでした。作品名も見忘れました。

そういえば、会場内は比較的若い層の来館者が多く、丁寧にキャプションを読み、静かに画面に見入っていて、そこそこの人の入りなのに、シ~ンと静まりかえっていたのが印象的でした。
ベーコンの絵は、画面にあふれる感覚的な何かを読み取るという作業ではなく、じっくり考えることを強いられる作品だったのかもしれません。

だからなのか、私は今回の作品群から、残念ながら、言葉では説明できないようなハッとさせられる刺激や新鮮さを得ることはできませんでした。
ん〜 ただ単に私の感性が鈍っただけかな?!

エピローグのウィリアム・フォーサイスのダンスのインスタレーションは観られて良かったです。

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